
御領の家
民家の再生は、「昔懐かしい」とか「骨太なつくりがいい」とかいう感傷的な言葉と懐古的な思いで実現できるものではない。
再生という工程の中に踏み入ると、少なくない障害に行く手を遮られ、現実と立ち向かうことになる。
そんな中で再生を実現する最大の力は、やはり『この家を守っていきたい』『住み継いでいきたい』という住まう人の強い意思である。住まう人の強い思いが家を残し、家族の歴史を継いでいく。継がれる家は、家族の心の絆を紡ぎ、繋いでゆく。やがて、住まう人の意思は、私たち(設計者)に通い、家族と心をひとつにして再生という現実に立ち向かうことになる。
この事例は、大阪府内・河内にある歴史ある水郷のまち『御領』から再生の依頼を頂いたものである。
御領
御領は、河内を代表する水郷地帯であり、まち中は水路(井路)が縦横に走り、井路沿いには段倉と呼ばれる倉が現在も見られる。まち中は静閑で道路沿いは門構えのある大きな屋敷が立ち並ぶ実に風格のあるまちである。まちの歴史は古く、室町時代初頭の住居跡群が確認されている。
御領の家(T邸)は、この地で代々「庄屋 喜兵衛」と名のり、三年坂と呼ばれ有名な靈神社の再建、又菅原神社 西福寺の建立等々と御領の歴史に深く関わる由緒ある家柄である。
今般このT邸の主屋(及び納屋)を、350年続く家歴を継承し、次代へつなぐ住まいとするため再生することとなった。
全体計画
敷地は230坪余りある大きな屋敷である。
中庭を中心に、北に主屋と長屋門、南に離れ、東に納屋が配置されている。
全体計画は、再生する主屋と新築する離れを中庭をはさんで配置し、各棟が中庭を介して有機的につながるように計画している。
主屋の再生に先立って、まず離れを改築(新築)している。
離れの中庭につづくリビングは大きく床を下げ、庭に近いレベルとし、又深い庇を取り付けることで庭とのつながりを感じるように配慮している。又、庭に面する建具はすべて引込むことが可能なつくりとして、庭に開放している。
先ず離れが完成し、現在は主屋が再生工事中である。
中庭を軸とした新しい暮らしがはじまろうとしている。
*日経アーキテクチュア11 月号に御領の家が掲載されました。(PDFファイル)

再生予定主屋




先ず新築完成した離れ








主屋の再生工事について
難しい再生工事であった。
軸組における破損の程度から、大黒柱、牛梁を取り替えるという難工事を職人方の高度な技術に支えられて克服している。
現況の破損調査時、又工事中の主要構造部(大黒柱、牛梁、ケムリガエシ梁など)の取り替え時は、建築主にとってはまさに親族の開腹手術に立会うようなものである。愛する家族(住まい)が無事であることを願い祈る気持ちが痛いほど私たちに伝わってくる。どのような困難に遭遇しても「必ず無事に届ける」と何度も心に誓う。
このような難工事を克服する原動力は、やはり施主の建物への強い愛着と思いの深さである。次に何物にも代えがたい大切な思い出と歴史ある住まいを託されたことに対する私たち設計者の施主への感謝の心である。
かなり遠隔地の存在となる私たち設計者に、違わず信頼を寄せて住まいを託していただいたこと、又、工事中、職人方へも微に入り細に入りお気遣いいただいたことに建築主へ心から感謝する再生工事である。









工事写真(PDFファイル)

